King Arthur

キング・アーサー /ディレクターズカット版

 この作品ですが、最近流行りの歴史物ハリウッド映画(この時点で自分的には映画としては点が低いのですが)で、日本の宣伝ページにあまりにも酷い内容(ローマ人のアーサーが蛮族の脅威に対して立ち上がる云々)のあらすじが紹介されていて、みんなから放映前からダメ映画とバカにされていた映画です。

 当然マスメディアでも、レビュアーが“アーサー王”を全く知らないこともあってか、わけのわからない紹介ばかりで、観る気を失わせるには十分でした。


 さて、近場での興行終了後、ネットで妙な話を眼にしました。どうもこの映画、地元で非常に評判が良いというのです。それも、私の好きなアイリッシュケルトといった系統のページからの情報なのです。

 で、情報をかき集めた結果、“歴史資料から浮かび上がるアーサー像をマニアックに追い求めた作品”だったそうなのです。まあ、ハリウッド映画なのでダメ部分は余るほど盛り込まれているようなのですが。。。

 時代背景的に、すでにローマの統治下にあったブリタニアアーサー王に相当する人物(よく言われるアウレリウスとか)が居れば、ローマ化されていて不思議ではないのですけどね。


 観ておけば良かった〜と悔やんでいたところ、るるーがDVDを買ってきてくれたので、観て真相(面白いかどうか)を確認してみたいと思います。

 個人的にはマビノギオンとかからイメージされる(聖杯の代わりに魔法の大釜とか)、もっと古い伝承のアーサーの方が好きです。

 観ました。良かったです。意外でした。
 少なくともあのRogueのような格好のグウィネヴィアは一度足りと出ませんでした(笑) ピクト人のペイントをしてました。刺青じゃなくて。

 本筋はやはり史実(といっても、アーサー王伝説に史実はないですけど)の情報を元にいろいろ考えて試してみたといった感じのものでした。

 比較的リアリティのある物語がストイックに展開していくので、マロリー版アーサー王はとても好きだけれどそれ以上は突っ込んだ知識は無いという人や、宮廷ロマンスやキリスト教的騎士に幻想を抱く人には観ていられないかもしれません。きっと文句たらたらでしょう。

 その点、英国では受けている理由がよくわかります。彼らは様々なアーサー王伝説の情報、古い民族の知識にしばしば触れることができ、何よりアーサー王が実在していたと信じて疑わないほどの人が多いからです。


 アーサー王は、ローマ人(どこのローマ人かは不明)の司令官の父親と、ピクト人(ウォード)の母親の間に生まれたという設定です。この時代、カムリも含めてローマ支配下にあったので、ローリーカを身につけたアーサーもありうることでしょう。(少なくとも中世の鎧を身につけてるよりまともな話です)

 で、円卓の騎士たちは皆、マロリー版から名前とイメージだけ抜き出したような感じです。全員、サルマティアから(新解釈(笑))徴兵されてきています。遊牧民なので騎馬技術に長けているという設定です。兵役終了後は市民権を得られるのかと思ったら、ただ自由になれるだけでしたが。

 ピクト人は謎の民族なのですが、ドルイドのマーリンが長(この時代だから騎士(=戦士)が長のはず)を求めています。

 サクソン人は、物語の途中からしか描かれていないのでよく説明されてませんが、もともとはローマの傭兵だったのでしょう。会話も通じますし。


 で、良かった点。

 古き良きブリタニアの深い森を表現しようとしたのが、映像からよくわかります。淡々と話が進むのも好きです。武器や鎧(チェインメイルの目が詰まりすぎてる気はしましたが)、農民の農具まで時代考証がよくできてたと思います。

 それから『騎士』の意味。所謂『騎士道』の騎士のイメージはずっと新しいもの。この頃の騎士はつまり部族の戦士階級の者のことなので、当然円卓の騎士もアーサーを除いて全員が異教徒です(笑)

 あと、ローマの腐敗がちゃんと描かれていたことが、ローマ帝国嫌いの私にとってはすっきりしました。

 で、困った点。

 大きな話を単純明快に、それはそれで上手くまとめたものなので、細かい設定が説明しきれてません。微妙なところですが。

 サクソンの大軍を打ち破るためにピクト人がトレビュチェットを運用してます(笑) あと、あの炎はギリシャ火でしょうか?えらい燃え方です(笑)

 で、困りどころは円卓の騎士の戦い方。特に一騎打ち。ハリウッド的サムライアクションでした(笑) トリスタン。あんた何者ですか?他の集団戦闘はまともです。


 全体的に観て、落ち着きのあるハリウッド映画程度の面白みはあると思います。13th Warriorとかが楽しめる人なら十分楽しめると思います。

 この作品、何よりいちばんの問題点は日本の配給元の宣伝だったと思いますね。。。